ヴォルテールの名言集 1694-1778
- 石田卓成

- 3月23日
- 読了時間: 11分
更新日:10月1日
【自由と権利】
1.「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを表明する権利は命をかけて守る。」 (エヴリン・ベアトリス・ホール著『ヴォルテールの友人たち』より)
解説:この世界的に有名な言葉は、実はヴォルテール自身が言ったものではありません。20世紀初頭の作家エヴリン・ベアトリス・ホールが、ヴォルテールの伝記の中で「彼ならこう言うだろう」と、その思想を要約した一文です。しかし、この言葉はヴォルテールの精神、特に言論の自由を何よりも重んじた彼の姿勢を完璧に捉えているため、彼自身の言葉として広く知られるようになりました。
2.「自然は、すべての人間に権利を与えている。」(ヴォルテールの思想より)
解説:これは、人間は生まれながらにして、誰からも奪うことのできない基本的な権利を持っているという「自然権」の考え方を示しています。ヴォルテールは、身分や家柄によって人の価値が決められる当時の社会を批判し、すべての人間が法の下では平等な権利を持つべきだと主張しました。この思想は、近代の人権思想の基礎の一つとなりました。
3.「意見の自由がなければ、他のすべての自由は失われる。」(ヴォルテールの思想より)
解説:ヴォルテールは、人々が自分の考えを自由に表現できる「言論の自由」こそが、あらゆる自由の土台だと考えていました。もし政府や権力が人々から意見を言う自由を奪ってしまえば、学問の自由や信教の自由など、他の大切な自由も次々と失われてしまう。だからこそ、言論の自由は社会にとって不可欠なのだと、彼は生涯を通じて訴え続けました。
4.「すべての人間は、自然の法則のもとで平等である。」(『哲学辞典』「平等」の項より)
解説:この言葉は、ヴォルテールの平等についての考え方を要約したものです。ただし、彼が主張した「平等」とは、すべての人が同じ財産を持つべきだという意味ではありませんでした。彼が求めたのは、身分や財産に関わらず、すべての市民が同じ法律によって裁かれ、同じように税金を納めるといった「法の下の平等」でした。
5.「権利とは、人間が互いに与え合うものであり、奪うものではない。」(『寛容論』の思想より)
解説:権利は、自分だけが一方的に主張するものではなく、社会に生きる人々がお互いを尊重し、認め合う中で初めて成り立つ、とヴォルテールは考えました。他人の権利を尊重することが、結果的に自分の権利を守ることにつながる。こうした相互承認の精神こそが、公正で平和な社会の基礎になると説いています。
6.「言論の自由は、すべての自由の母である。」(ヴォルテールの思想より)
解説:この言葉は、ヴォルテールが言論の自由をいかに重要視していたかを端的に示しています。自由に意見を交換できる環境があるからこそ、新しい思想が生まれ、社会が発展していく。言論の自由は、他のあらゆる自由を生み出し、育む「母」のような存在であるという、彼の強い信念が込められています。
7.「意見を抑圧することは、人間の魂を殺すことだ。」(『寛容論』の思想より)
解説:ヴォルテールにとって、異なる意見を力で封じ込めることは、単にその人の口を塞ぐだけでなく、その人の精神、つまり「魂」そのものを殺すことに等しい、非常に野蛮な行為でした。思想の自由は、人間が人間らしくあるための根源的な権利であるという、彼の痛烈なメッセージです。
【寛容と人間らしさ】
8.「寛容は人間性の最初の法則である。」(『哲学辞典』「寛容」の項より)
解説:他人の考え方や信仰、文化の違いを認め、受け入れる「寛容」の心は、人間社会にとって最も基本的なルールである、とヴォルテールは考えました。彼が生きた時代は、宗教的な不寛容が原因で多くの悲劇が起きており、寛容こそが平和な社会を築くための第一歩だと説いています。
9.「寛容とは、人間の弱さを理解することである。」(『哲学辞典』「寛容」の項より)
解説:なぜ私たちは他人に寛容であるべきなのか。ヴォルテールによれば、それは人間誰しもが不完全で、間違いを犯す弱い存在だからです。他人の欠点や過ちを見て見ぬふりをするのではなく、「自分も同じように間違うかもしれない」と理解し、共感することから寛容の精神は生まれる、と彼は考えました。
10.「われわれは皆、欠点と過ちに満ちている。互いの愚かさを許し合うことこそ、自然の第一法則である。」(『哲学辞典』「寛容」の項より)
解説:これはヴォルテールの寛容の考え方を最もよく表す、彼自身の言葉です。人間は誰だって完璧ではなく、弱さや間違いを抱えているのだから、お互いのちょっとした愚かさや失敗を許し合うべきだと考えました。これが、人間社会で平和に暮らすための基本的なルール(自然の第一法則)だと説いています。
11.「すべての人間は兄弟である。」(『寛容論』より)
解説:この言葉は、ヴォルテールの代表作『寛容論』の有名な一節です。彼は、人種や国、宗教が違っても、すべての人間は同じ創造主によって作られた「兄弟」のような存在だと考えました。だからこそ、互いに憎み合うのではなく、尊重し、助け合うべきだという、彼の普遍的なヒューマニズムが表れています。
12.「我々は互いに助け合うべきだ。それが自然の法則である。」(『寛容論』の思想より)
解説:ヴォルテールは、人間は一人では生きていけない社会的な存在だと考えていました。そのため、お互いに協力し、困っている人を支え合うのは、人間にとってごく自然なこと(自然の法則)だと説きました。相互扶助の精神が、社会をより良くするための基本であるというメッセージです。
13.「寛容がなければ、人間は互いを食い尽くすだろう。」(『寛容論』の思想より)
解説:この少し過激な表現は、不寛容な社会がもたらす結末への強い警告です。もし人々が自分と違う意見を持つ人を排除し、憎しみ合うようになれば、社会は対立と争いで満ち、最終的には自滅してしまう。寛容は、社会が存続するために不可欠な要素なのだと、彼は強調しました。
14.「人類は一つの家族であり、争いはその無知の証である。」(『寛容論』の思想より)
解説:ヴォルテールは、国や文化の違いを超えて、全人類は一つの大きな「家族」のようなものだと考えていました。ではなぜ争いが起きるのか。それは、お互いについてよく知らない「無知」が原因だと彼は指摘します。相互理解を深めることこそが、争いをなくすための鍵だと説いています。
【理性と批判精神】
15.「理性は人間の唯一の導き手である。」(ヴォルテールの思想より)
解説:ヴォルテールが生きた啓蒙時代は、「理性」が非常に重視されました。彼は、人々が感情や迷信、あるいは権威の言うことを鵜呑みにするのではなく、自分自身の頭で冷静に考え、判断すること(理性)こそが、個人と社会をより良い方向へ導く唯一の信頼できるガイドだと信じていました。
16.「判断する前に調べなさい。そして理解する前に判断しないように。」(ヴォルテールの思想より)
解説:物事をよく知りもしないで、軽率に決めつけてはいけない、という教えです。表面的な情報や噂に流されず、まずは自分で十分に調べ、深く理解しようと努める。そうした批判的な精神と慎重な態度が、正しい判断には不可欠だとヴォルテールは考えました。
17.「真実を求める者は、常に疑う者である。」(ヴォルテールの思想より)
解説:真理にたどり着くためには、世間の常識や権威ある人々の教えをそのまま信じるのではなく、「それは本当だろうか?」と常に疑う姿勢が大切だとヴォルテールは説きました。健全な懐疑心こそが、真実を探求するためのスタート地点だというわけです。
18.「理性は、我々を迷信の闇から救う光である。」(ヴォルテールの思想より)
解説:啓蒙主義という言葉が示すように、ヴォルテールは「理性」を、人々を非科学的な迷信や偏見といった「闇」から解放してくれる「光」だと考えていました。理性的に物事を考える力こそが、真実を見抜くための希望の光であるという、彼の信念が込められています。
【宗教と迷信への批判】
19.「神が存在しないならば、神を発明する必要があるだろう。」(『三人の詐欺師の本の著者への書簡』より)
解説:この非常に有名で、少し挑発的な言葉は、彼が無神論者だったという意味ではありません。ヴォルテールは、特定の教会やその教えには強く反対しましたが、神の存在そのものは否定しませんでした。彼は、特に教育を十分に受けていない人々にとって、「良いことをすれば報われ、悪いことをすれば罰せられる」という神の存在を信じることが、社会の秩序や道徳を保つために役立つと考えていました。つまり、社会を機能させるための「装置」として神は必要だ、という現実的な視点を示した言葉です。
20.「迷信は、人間を獣に変える。」(『哲学辞典』「迷信」の項より)
解説:ヴォルテールは、根拠のない迷信や思い込みが、人々の理性的な判断力を奪い、時には残虐で非人間的な行動へと駆り立てる、と考えていました。迷信は、人間を理性ある存在から、衝動的に行動する「獣」のような存在に変えてしまう危険なものであると、彼は強く警告しました。
21.「狂信は、理性を完全に殺す病気である。」(『哲学辞典』「狂信」の項より)
解説:自分の信じることだけが絶対に正しく、他はすべて間違っていると考える「狂信」は、ヴォルテールが最も嫌ったものでした。彼は、狂信が人々の冷静な判断力(理性)を完全に麻痺させ、暴力や戦争につながる「危険な病気」だと表現し、その危険性を訴えました。
【労働と現実主義】
22.「労働は三つの大きな悪、すなわち退屈、悪徳、必要を遠ざける。」(物語『カンディード』より)
解説:この言葉は、彼の代表作『カンディード』に登場します。働くことには三つの良いことがあると説いています。第一に、仕事に集中することで「退屈」から解放される。第二に、悪いことを考える暇がなくなるので「悪徳」から遠ざかる。そして第三に、生活費を稼げるので「貧困(必要)」から逃れられる。労働の持つ現実的な価値を端的に示した言葉です。
23.「われわれの庭を耕さねばならない。」(物語『カンディード』より)
解説:これも彼の代表作『カンディード』の、あまりにも有名な締めくくりの言葉です。主人公は世界中を旅してひどい目に遭い、「この世界が最善である」という楽観的な哲学が現実離れしていることを痛感します。最終的に彼がたどり着いた答えがこれでした。つまり、壮大な哲学について議論するよりも、まずは自分の足元を見て、目の前にある自分の庭(仕事や生活)をきちんと手入れすること、つまり地道で具体的な行動こそが大切だ、という現実的なメッセージが込められています。
【楽観主義への皮肉】
24.「この世が最善の世界だと言う者は、この世を見ていない。」(物語『カンディード』の思想より)
解説:ヴォルテールは、彼の時代の哲学者ライプニッツが唱えた「この世界は神によって創られた最善の世界である」という楽観主義に強く反対しました。彼の代表作『カンディード』は、まさにこの思想を皮肉るための物語です。世の中には災害や戦争、不条理な苦しみが満ちているのに、それらから目を背けて「すべてはうまくいっている」と考えるのは、現実を見ていない証拠だと痛烈に批判しました。
25.「すべてが善であると信じることは、すべてを見ないことだ。」(物語『カンディード』の思想より)
解説:こちらも『カンディード』のテーマを要約した言葉です。世の中の良い面だけを見て、悪い面や人々の苦しみ、社会の不正といった現実から目をそむけてしまうのは、物事の半分しか見ていないのと同じことです。現実をありのままに直視することの重要性を訴えています。
【言論と知識の力】
26.「最も有益な本は、読者に自分で考えることを促す本である。」(『哲学辞典』序文の思想より)
解説:ヴォルテールは、単に知識や答えを一方的に与える本よりも、読者が「これはどういうことだろう?」と自分自身の頭で考えるきっかけを与えてくれる本こそが、本当に価値のある本だと考えていました。読者が本の「残りの半分を自分で作る」ような、主体的な読書を促す言葉です。
【社会と商業】
27.「商業は、平和の絆である。」(『哲学書簡』「商業について」の思想より)
解説:ヴォルテールはイギリスに滞在した際、ロンドンの証券取引所でキリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒といった異なる宗教の人々が、互いの違いを乗り越えて平和的に取引している光景に感銘を受けました。彼は、経済的な利益を共有する「商業」活動が、宗教的な対立を超えて人々を結びつけ、平和な関係を築くための強力な「絆」になると考えました。
28.「社会は、個人の自由が守られて初めて繁栄する。」(『哲学書簡』の思想より)
解説:社会全体が豊かになり、発展するためには、まず一人ひとりの市民の権利や自由がきちんと保障されることが大前提である、とヴォルテールは主張しました。個人の自由な活動こそが、社会全体の活力と繁栄の源泉になるという、彼の自由主義的な社会観が表れています。
【歴史と人間の愚かさ】
29.「偏見は、無知の子供である。」(『自然法の詩』より)
解説:この言葉は、ヴォルテールの詩の一節「偏見とは愚か者の理性である 」の意訳です。なぜ人は偏見を持ってしまうのか。それは、物事を正しく知らない「無知」から生まれるのだと彼は考えました。つまり、きちんと学び、理性的に考えることで、偏見という「無知の子供」は克服できるという、啓蒙思想家らしいメッセージが込められています。


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