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検証・能登半島地震:もう同じ過ちは繰り返さない ~人災を防ぐための具体的提言~

taku181

更新日:1月19日



はじめに

 令和6年能登半島地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。また、一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。


 元消防隊員として、過去2度の激甚災害の現場を経験していますが、今回の能登半島地震の対応については、多くの尊い命が失われた「人災」の側面が極めて強いと痛感しています。


 発災直後から、自衛隊、緊急消防援助隊、警察などが現地で懸命な救助活動を展開しました。しかし、指揮を執るべき県行政の機能不全、関係機関の連携不足が混乱を招き、結果として救助活動に大きな支障をきたしました。


 なぜ、プロであるはずの機関が、基本的な災害対応ができなかったのか。どのような「できない理由」があったのか。これらの疑問を解消するため、発災2日目~1月5日にかけて、所属する党に対し政府への申し入れを行うように依頼したり、SNSを利用し世に本来とるべき対応策を訴えたりして参りました。


その内容は以下の通りです。

・被災地への一般車両乗り入れ制限

・全ての孤立エリアへの、無線機を持った複数名の情報収集隊員の、ヘリホイスト降下による投入

・物資運搬は、ヘリ着陸不能な狭い場所でも、ホバリング状態から物資を届けられるスリング吊り下げ方式の活用

・海上自衛隊輸送艦の甲板を、ヘリ物資運搬拠点として活用

・現地の解体業者が所有するハサミ付きユンボと、プロオペレーターの積極活用


 なお、以下の提言の内容は、令和6年3月の防府市議会定例会の一般質問および、民族派団体一水会の機関紙「レコンキスタ」の誌面に令和6年2月号から同年7月号に寄稿した内容を基に、趣旨はそのままに最新の数値等を反映させたものです。


 この度の失敗を、教訓として活かすことが重要です。なぜなら、真摯な検証と対策を怠れば、次なる大震災で同じ悲劇が繰り返されることは明白だからです。しかし残念ながら、政府には、今回の活動が失敗だったという認識が欠如しているように見受けられます。


 災害対応において、事後検証は極めて重要です。しかし、組織というものは往々にして、不都合な事実を隠蔽しようとする力が働くものです。これは、小生が過去に豪雨による激甚災害を経験した当市においても見られた傾向です。すでに、現場の隊員たちは、問題点を正確に把握しているはずです。今回のケースでは、石川県や政府が、事実を隠蔽することなく、真実を明らかにする勇気を持つことが求められます。


 事後検証の目的は、未来への教訓を得ることです。しかし、現状では、そのような前向きな動きが見られず、危機感を抱いています。


そこで、これまでの現場経験に基づき、今回の地震対応の問題点を検証し、今後の対策について考察します。本稿が、次なる大震災から一人でも多くの命を救うための一助となることを切に願っております。 ※AIを活用し一般質問と誌面に寄稿した内容を纏めました。文責:石田たくなり


第1章:能登半島地震:被害の甚大さと初動対応  マグニチュード7.6、死者241名:被災地の現状と救助活動の開始


 令和6年1月1日16時10分、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の地震が発生しました。志賀町で最大震度7、輪島市、珠洲市、七尾市、穴水町、能登町で震度6強を観測し、大津波警報が発表され、輪島港では1.2m以上の津波を観測しました。令和6年3月1日現在、この地震による死者は241名、負傷者は1,186名にのぼり、住家被害は全壊8,359棟、半壊16,416棟、一部破損66,579棟を含む計91,559棟が確認されています(令和6年4月24日14:00時点の数値)。特に、珠洲市、輪島市、穴水町、能登町では、家屋の倒壊率が極めて高く、多くの集落が孤立状態となりました。土砂崩れによる道路寸断は229箇所、断水は45,800戸、停電は最大約40,000戸に及び、避難者数は最大で33,602名に達しました。地震発生後、直ちに自衛隊に災害派遣が要請され、16時35分には緊急消防援助隊の先遣隊が現地へ向け出発、18時30分には緊急消防援助隊陸上部隊が被災地に到着し救助活動を開始しました。警察も広域緊急援助隊を派遣し、被災地での活動を開始しました。


第2章:通信途絶と情報不足が招いた、救助活動の遅延とその要因を徹底解剖

 なぜ情報が届かなかったのか?孤立集落の悲劇と対策本部の機能不全

 発災翌日の1月2日午前中には、上空からの確認で被害の概況は把握可能であったにも関わらず、孤立集落を含めた全体像を把握するための本格的な調査は実施されませんでした。地震の影響で携帯電話網に障害が発生し、多くの地域で通信が途絶しました。また、当時の自衛隊は、個々の隊員に住民との連絡を想定した携帯無線機をほとんど配備しておらず、孤立集落との直接的な通信連絡手段は持っていない状況でした。このため、地上部隊の進入が困難な地域では、ヘリコプターから隊員をホイスト降下させ、直接情報を収集する必要性が極めて高かったにも関わらず、それが困難な状況にありました。 被害状況の把握の遅れは、その後の救助活動にも大きな影響を与えました。また、県災害対策本部の指示系統が不明瞭であり、自衛隊、消防、警察への適切な指示が出せず、各機関間の情報共有も不十分であったため、活動の空白地帯が生じるなど、現場は混乱を極めました。さらに、被災状況が不明なまま、限られた応援部隊を分散配置したため、救助が必要な地域への迅速な対応が遅れ、特に孤立集落への部隊派遣が遅延し、多くの住民が救助を待つ状況が続きました。


第3章:初動の情報収集の失敗:その原因と組織的課題

 現場で何が起きていたのか?問われる平時からの備えと組織の壁


 今回の地震では、初動の情報収集において自衛隊への依存度が高い状況でしたが、自衛隊はそもそも住民との連絡を想定した携帯無線機をほとんど配備しておらず、さらに警察とは異なり、被災住民からの直接の聴取による情報収集を日常業務としていないため、この点において、その能力が十分に発揮できる状況ではありませんでした。一方、警察は、自前のホイスト付きヘリコプターを持ち、隊員2名に1台程度の割合で携帯無線機が配備されており、さらに平時から交番勤務などを通じて地域住民と密接な関係を築いているため、本来は警察が初動の情報収集を担うべきでした。また、電話通信途絶時の情報収集手段として、携帯無線機の不足、そして、災害対策本部からはヘリの孤立集落へのホイスト降下による情報収集要請が行われませんでした。県災害対策本部における情報集約・分析機能も脆弱であり、収集した情報を迅速に分析し、適切な意思決定に繋げることができませんでした。県災害対策本部のリーダーシップ不足も指摘されます。関係機関との連携不足の根本原因は、平時の訓練不足、情報共有不足、役割分担の不明確さにありました。従来の関係機関による合同訓練は、事前に役割分担やシナリオが共有されている場合が多く、実際の災害時に想定外の事態が発生すると訓練通りに機能しない可能性が高いことが、今回の震災で露呈しました。これは訓練が形式化していることを示唆しています。さらに、現地調査に基づかない机上の部隊配置が行われ、現場のニーズに合致した部隊配置ができませんでした。限られたリソースを最大限活用するための、臨機応変な対応も欠如していました。阪神・淡路大震災や東日本大震災など、過去の激甚災害の経験と照らし合わせると、情報収集、指揮命令系統、リソース配分に関する課題は今回初めて生じたものではなく、繰り返し発生していることがわかります。これらの失敗が繰り返された原因は、過去の災害の教訓が十分に活かされていないこと、そして組織としての学習能力が不足していることが考えられます。


第4章:道路寸断:救助を阻んだ「陸の孤島」化

 なぜ救助隊は被災地へ辿り着けなかったのか?問われる代替手段の確保


 多くの道路が寸断され、迂回路もない状況下で、発災翌日、翌々日になっても救助隊が現場に到着できないという事態が発生しました。例えば、発災3日後も、珠洲市や輪島市の一部の孤立集落には、救助隊が到達できておらず、住民の安否確認が困難な状況が続きました。道路寸断は事前に想定されていた事態ではありますが、プロである各機関には、状況に応じた代替手段を迅速に検討し実行する、臨機応変な対応が求められました。しかし、残念ながら、十分な対応ができたとは言い難い状況でした。


第5章:空からの救出:ヘリ活用の可能性と課題

 防府消防と、防災ヘリ「きらら」の挑戦から学ぶ、迅速な救助体制の構築に向けて


 防災ヘリによる救助隊員・資機材の投入方法は、道路寸断時の有効な手段となり得ます。この度の能登半島地震における、道路寸断時の救助活動の遅れを受け、防府消防の隊員と一緒に、宇部市にある山口県の消防防災航空隊の隊員とも連絡を取り合いながら、山口県防災ヘリ「きらら」が上空でホバリングした状態のまま、救助隊員と救助資器材を、ホイストと吊り下げ用スリングを用いて救助現場に直接投入する方法を検証し、技術的に可能であることを確認しました。また、防府市消防長に、この検証結果を受け、必要な救助資機材と隊員5名の投入について、いつでも対応できる体制を整えるように依頼したところ、3時間後に整えてくださいました。これは迅速な対応として高く評価できます。そして、この迅速な対応は、他自治体への範例となるものであり、全国の消防で同様の仕組みを構築する価値は十分にあります。そのため、総務省消防庁による早急な調査と全国展開が必要です。道路寸断時の救助活動においては、ヘリによる検討が不足していました。また、アクセス方法の検討や、必要なリソースの確保など、状況に応じた迅速な意思決定が欠如していました。さらに、関係機関との連携が不足しており、利用可能なリソースを有効活用できませんでした。


第6章:重機活用の課題:官民連携の不足

 なぜ現場に重機がなかったのか?問われる解体業者との連携体制


 1月7日の夜にNHKニュースで放送された救助現場の映像では、まだ人が生き埋めになっている状況で、解体用(救助活動用)のハサミ付きバックホーが使用されていましたが、明らかに経験不足と思われる隊員が操作していたため、屋根と壁が一気に崩れ落ち、アームのハサミ部分が大きくバウンドする様子が映し出されていました。これは、災害現場での重機操作の未熟さが露呈した事例と言えます。災害現場での重機操作は、専門的な技術が必要であり、日頃、解体作業に携わっていない消防や自衛隊の隊員では、繊細な作業は困難です。しかし、平時から解体業者との連携が不足していたため、プロのオペレーターによる迅速な救助活動が実現できませんでした。また、当市において調べたところ、建設業協会に加盟している解体業者はわずかであり、どの会社がどのような重機を保有しているかの情報も行政側では把握しておりませんでした。さらに、近年は、緊縮財政政策により公共事業費が削減されてきた影響で土木会社の数が減り続けているのに加えて、自前で重機を所有せず、レンタルで対応する土木会社が増加傾向にあり、災害発生時に現場付近に重機が不足するリスクが高まっています。国土交通省の経営事項審査制度では、建設会社が自前で重機などの固定資産を所有する場合、その運用効率が低いと経営状況を評価するY点(経営状況分析)に悪影響を及ぼす可能性があり、結果として、重機保有を阻害している可能性もあります。

 加えて、一般質問で私が提案した「赤線・青線の維持管理を地域と一緒になって行ってくれるような土木会社については、我が市の入札制度において、地域貢献ポイントを大幅に増やす」取り組みについては、地域貢献へのインセンティブが高まり、重機保有や地域との連携強化に繋がると考えられ、重機保有を促進する具体的な施策の一例として良い効果が期待できます。


第7章:重機活用のための提言:官民連携強化と制度改革

 チヌークによる重機搬送は可能か? 実効性ある協定とデータベース構築の急務


 多くの自治体で、災害時における建設業者との応援協定が締結されているものの、実効性に乏しい場合が多いのが現状です。平時から解体業者の重機保有状況(種類、台数、性能)を詳細に把握し、データベース化することが急務です。また、夜間・祝日の連絡体制の不備も、有事の際の迅速な対応を妨げるはずです。自衛隊ヘリ(チヌークCH-47等)による重機運搬は、孤立地域での救助活動において有効な手段となり得ます。例えば、CH-47の最大吊り下げ能力は約12トンであり、この能力を活用すれば、多くのバックホーなど、解体用(救助活動用)の重機を被災地に迅速に輸送することが可能です。早急に具体的な運用方法や手順が確立する必要があります。それに併せて、重機オペレーターを現場に迅速に投入する方法(自衛隊や防災ヘリのホイスト降下で、重機オペレーターを隊員が抱きかかえて現場に降ろす等)の検討もしていく必要があります。国土交通省の経営事項審査制度は、運用効率を重視するあまり、災害時に必要な重機保有を阻害している構造的な問題が存在します。具体的には、「Y点(経営状況分析)が下がる傾向」や「W点の加算はあるものの、全体として入札時に不利になってしまう」といった問題が生じています。これらは、早急な見直しが必要です。


第8章:支援物資供給の停滞:空からの支援の遅れ

 なぜ「吊り下げ方式」が活用されなかったのか?問われる自衛隊と消防の連携


 土砂崩れや道路の寸断により孤立した山間部への支援物資の運搬が大幅に遅れ、最終的には陸上自衛隊の隊員による人海戦術で物資が運ばれました。余震による二次災害のリスクがある中での人力運搬は、隊員の安全を脅かすものであり、本来であれば避けなければならない方法です。能登半島には、ヘリコプターの吊り下げ方式で支援物資を運べない場所はなく、たとえ着陸場所が確保できなくても、上空でホバリングしたまま物資を届けることが可能です。これは、東日本大震災の際に、米軍が「トモダチ作戦」で多用した方法です。しかし、自衛隊は吊り下げ用のスリングをほとんど保有しておらず、訓練も不十分でした。また、吊り下げ方式での物資運搬が可能で、日常的に訓練を行っている消防防災ヘリコプターへの依頼もされませんでした。SNS上では、なぜ吊り下げ方式を採用しないのかという疑問の声が多く上がり、特に、登山愛好家からは、民間ヘリが日頃から山小屋への物資運搬で容易に行っている方法なのに、なぜプロである自衛隊にできないのかという指摘が相次ぎました。


第9章:届かぬ支援物資:孤立地域を救う「空の道」の確保

 誰が「空の道」を統括するのか? 情報共有と役割分担の明確化を


 ヘリ部隊に指示を出す立場である石川県災害対策本部の調整不足が、ヘリ活用の不備を招いたと考えられます。特に、航空運用調整班の機能が十分に発揮されず、自衛隊、消防、警察、民間等のヘリ運用の役割分担を明確化できなかったことが問題です。各機関同士で、互いの能力、役割、装備、訓練状況など、基本的な情報が共有されていなかったことが、ヘリ活用の判断を遅らせた根本的な原因です。特に、どの組織に物資運搬を依頼すれば良いのか、石川県の航空運用調整班が的確に判断できる体制が構築されていなかったことが、今回の問題の背景にあります。


第10章:未来の命を守る:能登の教訓を活かす9つの提言

 「人災」の悲劇を繰り返さないために、今、私たちがなすべきこと

 今回の能登半島地震の経験を踏まえ、将来の災害における人命救助と被災者支援をより効果的に行うためには、以下のような具体的かつ実践的な対策を、国、自治体、関係機関が連携して、早急に実行に移す必要があります。


10-1. 孤立集落の情報収集は警察が適任

 大規模災害発生時には、孤立エリアごとに、県警ヘリを活用して、1孤立集落に2名以上の警察官を、ヘリからのホイスト降下で投入する体制を構築すべきです。この警察官は、携帯無線機等の通信手段を保持し、倒壊家屋や周辺状況の確認、住民からの近隣住民の安否情報(車の有無、正月期間の予定、世帯構成など)の収集、生存者や負傷者の有無の調査を行い、携帯無線機で無線中継拠点に報告する役割を担います。そして、県の災害対策本部は、これらの情報を集約・分析し、全体の被害状況を迅速に把握し、それに基づき、適切な部隊配置を決定し、必要に応じて増援を要請することが求められます。さらに、通信途絶時の情報収集手段として、衛星携帯電話等の活用も検討すべきです。(※この度の災害では1月10日にスターリンクが提供されました。)


10-2. 道路が寸断した場合の体制は平時から整えて

 道路が寸断された状況を考慮し、防災ヘリを活用した、ホイスト降下による救助隊員投入と、吊り下げ運搬による救助資機材の投入方法を確立し、全国の消防においても同様の体制を整備するよう、総務省消防庁から迅速に指示を出す必要があります。同時に、海上自衛隊の協力を得て、輸送艦等の甲板の広い艦船をヘリ物資運搬の中継拠点として活用する体制を構築し、道路以外のアクセス方法(ヘリや船舶の活用、迂回路確保など)の検討も平時から進めることが重要です。


10-3. 重機活用に向けた解体業者や自衛隊との連携

 官民連携を抜本的に強化することが不可欠です。具体的には、災害時応援協定の実効性を向上させるため、平時から建設業協会加盟各社(解体業者含む)が所有する重機の種類・台数、夜間・祝日の連絡先などを詳細に把握し、データベース化しておくことを提案します。また、自衛隊との連携を強化し、自衛隊ヘリ(チヌークCH-47)と連携し、孤立エリアの家屋倒壊救助現場に上空からスリング吊り下げ方式で重機を直接投入する仕組みを構築するよう提案します。さらに、自衛隊や防災ヘリからのホイスト降下で、重機オペレーターを隊員が抱きかかえて現場に降ろし、救助活動を迅速に行えるようにすることも重要です。応援協定の要請に応じ地域貢献の意思を示してくれる土木会社への入札優遇措置などの検討も有効です。そして、救助活動終了後は、重機とオペレーターがそのまま現地に残り、道路啓開等の復旧作業を行う体制を構築することで、救助から復旧へのスムーズな移行を実現します。また、重機不足を招く一因となっている、国土交通省の経営事項審査制度については、重機保有を促進する方向に見直すよう、国に働きかけることが必要です。


10-4. 物資の運搬はヘリによる吊り下げ方式で

 ヘリを活用した物資運搬体制を確立するためには、大規模災害時における航空機の運用を調整する組織(例:石川県の航空運用調整班)の機能を強化し、自衛隊、消防、警察、民間等のヘリ運用の役割分担を明確化することが急務です。


10-5. 合同訓練を見せるための訓練から、本当に役に立つ訓練に

 自衛隊・消防・警察・自治体が合同で行う訓練を、訓練想定を事前に告知しない「ブラインド方式」で実施し、失敗から学ぶ環境を作ることが重要です。そして、訓練後の事後検証を通じて、連携方法を改善するとともに、日頃から組織同士の人事交流を活発化し、情報交換を促進することが求められます。各組織から「できない理由」ではなく、「どうすればできるか」を考えられるような人材を選出し、総合力を発揮できる仕組みを構築することも不可欠です。これらの取り組みを通じて、各組織が互いの強みと弱みを理解し、真に連携できる体制を構築することが可能となります。


10-6. 大規模災害に備えたインフラ整備

 インフラ整備・耐震化への財政支援強化も急務です。水道、下水道の耐震化、そして無電柱化の推進には、国の財政支援が不可欠です。特に、水道管の耐震化や豪雨対策としての下水道の整備、そして無電柱化の取り組みについては、国土強靭化予算における国庫補助割合を7割程度に引き上げることを、市長会などを通じて、国に強く要望すべきです。今回の能登半島地震の復興には、多額の予算が必要ですが、被災地の現状を鑑み、迅速かつ十分な財政支援を行うことが、国の責務です。(※結局、補正予算は組まれず、国は被災地を見捨ててしまいました。)


10-7. 自衛隊の装備不足

 今回の災害では、自衛隊員に十分な装備が必ずしも行き届いていない状況も明らかになりました。家屋倒壊の救助現場では、錆びた釘が出ていることも多く、本来であれば、踏抜き防止板入りの編み上げ靴が必要です。しかし、コスト削減のため、板が入っていないものが支給され、多くの隊員が自費で購入しているとのことです。他にも、通信用のトランシーバーや、ガラスによる負傷を防ぐためのケブラー手袋なども、自費で購入していると聞いております。これらの装備は、本来、国が責任を持って支給すべきものです。現場で命を守る隊員たちが、安心して任務を遂行できる環境を整えることは、国の責務であり、自衛隊員の処遇改善、特に装備の充実を、あらゆる機会を通じて国に求めていく必要があります。


10-8. 緊急通報迂回路整備

 119番緊急通報体制の抜本的強化も不可欠です。近い将来、必ず起こるといわれている南海トラフ地震のような広範囲にわたる大規模災害に備え、全国的な迂回システムの構築を、総務省消防庁に積極的に働きかけるべきです。通信指令業務の共同運用広域化に向けた抜本的な体制見直しと対策強化が求められます。東日本大震災以降、大規模災害時の通信の輻輳や途絶に備え、消防本部同士で119番通報を転送しあう「消防緊急通信ネットワーク」が北日本では整備されています。このシステムは、被災地の消防本部が機能不全に陥った場合、遠隔地の消防本部が119番通報を受信し、被災地の消防本部に情報伝達を行うものです。しかし、今回の能登半島地震のように、広範囲かつ甚大な被害が発生した場合、システムの有効性にはまだ課題が残ると言わざるを得ません。今後、南海トラフ地震や首都直下地震など、さらに広域的な災害の発生が懸念される中で、この「消防緊急通信ネットワーク」の実効性を高めるとともに、通信事業者との連携を強化し、119番通報の安定的な接続を確保することが不可欠です。119番通報が混みあった時に他の消防本部への迂回ルートを確保する仕組みを構築する必要があります。


10-9. 消防団との連携

 地域防災力の要である消防団との連携強化も重要です。特に、重機を所有する消防団員との連携は、災害対応力を大きく向上させます。重機やダンプ等を保有する消防団員の情報を、事前に調査をし把握した上で、平時から連携訓練を行うことで、現場活動におけるスムーズな連携が可能になります。具体的な方策を検討し、実行に移すべきです。

 加えて、災害対応能力の向上には、実効性のある訓練とその結果を検証し、改善に繋げるサイクルを確立する必要があります。定期的な訓練において、形式的な訓練から脱却し、ブラインド方式による訓練など、より実戦的な訓練を実施することが肝要です。現状の訓練は、事前に役割分担やシナリオが共有されている場合が多く、実際の災害時に想定外の事態が発生すると、訓練通りに機能しない可能性があります。訓練後には、必ず徹底した事後検証を行い、課題を洗い出し、改善策を立案し、次の訓練に反映させることが重要です。検証結果は、関係機関で共有し、組織の枠を超えた改善に繋げることが求められます。そして、各組織のリーダーは、検証結果に基づいた改善を率先して実行し、組織全体に浸透させ、災害対応力の向上に責任を持つことが求められます。リーダーは、問題点を指摘するだけでなく、改善策を具体的に指示し、実行を推進する役割を担う必要があります。また、常日頃から部下が意見を言いやすい環境を整備することも重要です。


おわりに ~絶望の淵から希望を見出すために~

 能登半島地震は、私たちに多くの課題を突きつけました。しかし、この課題に真摯に向き合い、対策を講じることで、未来の命を守ることができます。


 今回の災害対応について、阪神・淡路大震災当時の、後藤田正晴さんの村山総理への進言が話題になりました。

「天災はしょうがない。地震は人間の力ではどうしようもない。だけど天災が起きた後のことは全て人災だ」「あなたは政治家だから全部やらなければいけない。生命最優先で、やれることはなんでもやらなければいけない」というものです。この言葉を受けた、村山総理は、「決定権をもつ政治家を現場に派遣するから全部現場で決めてくれ、現場が一番分かるんだから。法律であろうが何であろうが、それをひっくり返してでも現場が必要だと思う物は全部やってくれ。法律違反というのなら後で法律を作ればいい。全て現場で決め、その責任は全て私が取る。」と言われたそうです。


 その後藤田正晴さんが遺された「後藤田五訓」は、あらゆる組織に通じる教えであり、特に災害対応を担う部署においては、徹底すべきものです。

「省益を忘れ国益を想え」

「悪い本当の事実を報告せよ」

「勇気を持って意見具申せよ」

「自分の仕事で無いと言うなかれ」

「命令が下ったら従い実行せよ」


 発災直後から、自衛隊、緊急消防援助隊、警察などが現地で懸命な救助活動を展開しました。しかし、指揮を執るべき県行政の機能不全、関係機関の連携不足が混乱を招き、結果として救助活動に大きな支障をきたしました。

 この度の反省を活かして、日本全体の災害対応力向上に繋げていくこと。次なる災害では絶対に同じ失敗をしないことが、私たちに課せられた使命です。


 小生は、後藤田正晴氏の「一日生涯」(朝に生まれ、夜に死ぬが如き覚悟で毎日を生きる)という言葉を胸に、常日頃から即断即決を心がけております。この度の能登半島地震では、多くの尊い命が失われ、その対応の不備から「人災」という言葉が重くのしかかります。しかし、この深い失望を未来への希望に変えねばなりません。この検証で明らかになった課題を、次なる災害の教訓とし、この提言が、そのための具体的な指針となり、ひいては一人でも多くの命を救う一助となれば、これに勝る喜びはありません。皆様と共に「人災」を減らし、安全な社会を築いていければ幸甚です。  未熟な点も多々あったかと存じますが、最後までお付き合いくださり有り難うございました。

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