トクヴィルの名言集 1805-1859
- 石田卓成

- 3月13日
- 読了時間: 15分
更新日:10月2日
アレクシ・ド・トクヴィル
1.「革命は、自由をもたらすものではなく、しばしば新たな専制を生む。」(旧体制と大革命)
解説:トクヴィルは、フランス革命を例に挙げています。自由を求めて始まった革命が、結果的にナポレオンのような独裁者による支配に行き着いてしまいました。彼が警告するのは、革命は必ずしも理想通りに進むわけではなく、かえって以前より自由が抑圧された政治体制につながる危険性がある、ということです。
2.「革命は、平等を求めるが、自由を破壊する。」(旧体制と大革命)
解説:フランス革命は「すべての人間は平等であるべきだ」という理念を掲げました。しかしトクヴィルは、この「みんなが同じであるべきだ」という平等の追求が、個人のユニークな考え方や行動の自由を制約してしまう危険性を指摘しました。平等への強い情熱が、自由を犠牲にすることがあるのです。
3.「中央集権は、自由の敵である。」(旧体制と大革命)
解説:政府に権力が集中しすぎる中央集権的な体制は、地方の人々の声や、自分たちの地域のことを自分たちで決める「自治」を抑え込んでしまいます。その結果、個人の自由が損なわれるとトクヴィルは警告しました。彼が重要だと考えたのは、地方の自治を活発にすることで、中央政府の強大な権力とのバランスを取ることでした。
4.「革命は、特権階級の不満から始まるのではなく、特権階級の改革から始まる。」(旧体制と大革命)
解説:革命は、最もひどい圧政下で起こると思われがちです。しかしトクヴィルは、支配層が少しでも改革を始め、状況が改善し始めた時にこそ革命の危険が高まると分析しました。なぜなら、少しの改善が人々の期待を大きく膨らませ、残された不満が以前よりも耐え難いものに感じられるからです。この「期待と現実のギャップ」が革命の引き金になるのです。
5.「自由は、個人の努力によって守られなければならない。」(旧体制と大革命・アメリカの民主政治)
解説:自由は、空気のように当たり前に存在するものではありません。市民一人ひとりが社会や政治に関心を持ち、自由を守るために行動し続けなければ、いとも簡単に失われてしまう、とトクヴィルは強調しました。自由には、それを維持するための市民の責任が伴うのです。
6.「政府は、社会の単なる道具に過ぎない。」(アメリカの民主政治)
解説:政府は、国民の上に立つ「主人」ではなく、国民の自由と幸福を実現するために働く「奉仕者」であるべきだ、というのがトクヴィルの考えです。政府の役割は、あくまで国民全体の利益を守るための「道具」であり、その力は常に国民によって監視され、コントロールされなければなりません。
7.「教育は、民主主義の基盤である。」(アメリカの民主政治)
解説:民主主義が健全に機能するためには、市民が感情やデマに流されず、物事を正しく判断し、賢明な選択をする能力を持つことが不可欠です。そのために、すべての人々が十分な教育を受けることが、民主主義社会の土台となるとトクヴィルは述べました。
8.「アメリカの民主主義は、地方自治によって支えられている。」(アメリカの民主政治)
解説: トクヴィルは、アメリカの民主主義の強さの秘訣は、活発な地方自治にあると考えました。中央政府がすべてを決めるのではなく、州や市町村といった地域コミュニティの住民が、自分たちの地域のことを自分たちで議論し決定する。この経験こそが、人々を主権者として育て、民主主義を根底から支える「学校」の役割を果たしていると評価しました。
9.「民主主義社会では、個人が政府に依存するようになり、自由を失う危険がある。」(アメリカの民主政治)
解説:人々が「何でも政府にお任せ」という状態に慣れてしまうと、次第に自分で考えて行動する意欲を失ってしまいます。その結果、政府の権力がどんどん強大になり、気づいたときには市民の自由が脅かされているかもしれない。トクヴィルは、この「穏やかな専制」の危険性を警告しました。
10.「民主主義は、個人の自由を守るために、強力な憲法を必要とする。」(アメリカの民主政治)
解説:民主主義では多数派の意見が尊重されますが、その勢いが強すぎると、少数派の意見や個人の権利が踏みにじられる「多数派の専制」という危険が生まれます。この多数派の暴走にブレーキをかけるため、簡単には変えられないルールである憲法や、権力から独立した裁判所が不可欠だとトクヴィルは考えました。
11.「自由は、個人の尊厳を守るために不可欠である。」(アメリカの民主政治)
解説:トクヴィルにとって自由とは、単に政治的な権利であるだけでなく、人間が人間らしく、尊厳を持って生きるための根本的な条件でした。個人が自由に考え、行動することによって、初めて自分の能力を最大限に発揮し、自分らしい人生を実現できるのです。
12.「民主主義社会では、個人が政府を監視することが重要である。」(アメリカの民主政治)
解説:民主主義を健全に保つためには、市民が「番犬」のように政府の行動を常にチェックし、権力が濫用されていないか監視することが求められます。市民による監視と批判があって初めて、政府は国民に対して透明性を保ち、説明責任を果たすようになります。
13.「自由は、個人の創造性を刺激する。」(アメリカの民主政治)
解説:人々が権力や古い慣習に縛られず、自由に考え、挑戦できる社会では、新しいアイデアや技術、文化が生まれやすくなります。トクヴィルは、個人の自由が、社会全体の進歩と発展を促す原動力になると考えました。
14.「民主主義社会では、個人が自分の意見を持つことが重要である。」(アメリカの民主政治)
解説:周囲の意見や「空気」に流されるのではなく、一人ひとりが自分の頭で考え、自分の意見を持つこと。この精神的な自立こそが、民主主義の基盤を支えます。多様な意見が交わされることで、社会はより豊かになり、より良い結論にたどり着くことができるのです。
15.「民主主義は、個人の自由を守るために、強力な法の支配を必要とする。」 (アメリカの民主政治)
解説:「法の支配」とは、権力者も含め、誰もが法の下に平等であり、法に従わなければならないという原則です。権力者が気まぐれにルールを変えたり、特定の人々を不当に扱ったりすることがないように、この原則が徹底されることこそが、個人の自由と権利を守るための土台となります。
16.「自由は、個人の幸福を追求する権利を含む。」(アメリカの民主政治)
解説:自由とは、単に束縛から解放されている状態を指すのではありません。一人ひとりが「自分にとっての幸せとは何か」を考え、それに基づいて自分の人生を設計し、幸福を追い求める積極的な権利そのものである、とトクヴィルは考えました。
17.「アメリカ人は、自由を愛するよりも、平等を愛する。彼らは自由を愛するが、平等を崇拝する。」(アメリカの民主政治)
解説:トクヴィルは、民主主義社会を動かす最も強力なエネルギーは、自由への情熱よりも「平等」への情熱であると見抜きました。彼は、アメリカ人がこの平等への強いこだわりを持つあまり、時には個人の卓越した才能や自由な活動を抑圧する力として働いてしまう危険性も指摘しています。
18.「民主主義社会では、個人が孤立し、無力になる危険がある。」(アメリカの民主政治)
解説:伝統的な身分や共同体のつながりが薄れる民主主義社会では、人々は社会全体のことに関心を失い、自分の家族や友人との小さな世界に閉じこもりがちになります(これをトクヴィルは「個人主義」と呼びました)。その結果、人々は社会の中で孤立し、大きな権力の前で無力感を抱くようになってしまうと警告しました。
19.「宗教は、民主主義社会における道徳の源泉である。」(アメリカの民主政治)
解説:トクヴィルは、アメリカの民主主義がうまく機能している重要な理由の一つとして、宗教の役割に注目しました。宗教が、人々の心の中に道徳的な規範や倫理観を育むことで、自由が単なるわがままに陥るのを防ぎ、社会全体の秩序を支えていると考えたのです。
20.「民主主義は、個人の権利を守るために、強力な司法制度を必要とする。」(アメリカの民主政治)
解説:多数派の意見や政府の意向によって個人の権利が侵害されそうになったとき、それを守る「最後の砦」となるのが、権力から独立した司法制度(裁判所)です。公正な裁判所が、多数派の圧力から個人を守ることで、民主主義は健全に保たれるとトクヴィルは強調しました。
21.「民主主義は、個人の野心を刺激するが、同時に個人の野心を制限する。」(アメリカの民主政治)
解説:民主主義社会は、「誰にでも成功のチャンスがある」という点で人々の野心をかき立てます。しかしその一方で、一人の人間が富や権力を持ちすぎないように、税金や法律によって極端な格差を是正しようとする力が働きます。この野心の促進と抑制のバランスが、民主主義の特徴だと指摘しました。
22.「アメリカ人は、物質的な成功を追求することで、精神的な価値を忘れがちである。」(アメリカの民主政治)
解説:平等な社会では、人々はお金やモノといった物質的な豊かさを成功の証として追い求める傾向が強まります。トクヴィルは、その結果、文化、芸術、思索といった精神的な豊かさや、より高尚な価値が見失われてしまうのではないかと懸念を示しました。
23.「民主主義は、個人の意見を尊重するが、同時に個人の意見を抑圧する。」 (アメリカの民主政治)
解説:これは「多数派の専制」の危険性を別の言葉で表現したものです。民主主義は、理念の上では多様な意見を尊重します。しかし現実には、多数派の意見が「社会の常識」となり、それに反する意見は言いにくくなるという同調圧力が生まれます。この圧力が、結果的に個人の自由な意見表明を抑圧してしまうのです。
24.「自由な社会では、個人が自らの運命を決定する権利を持つ。」(アメリカの民主政治)
解説:自由であることの核心は、自分の人生の進路を、親や国家など他者から強制されるのではなく、自分自身の意志で決定できる「自己決定権」にある、とトクヴィルは考えました。この権利こそが、個人の尊厳の源泉なのです。
25.「民主主義は、個人の自由を守るために、強力な市民社会を必要とする。」(アメリカの民主政治)
解説:「市民社会」とは、NPOや地域のボランティア団体、趣味のサークルなど、市民が自発的に作るグループのことです。こうした活動は、政府の権力をチェックしたり、社会の中で孤立しがちな個人と個人をつないだりする重要な役割を果たし、自由な民主主義を支える土台となります。
26.「自由は、個人の責任を伴う。」(アメリカの民主政治)
解説:自由とは「何をしても許される」ということではありません。自分の行動が他者や社会全体にどのような影響を与えるかを考え、その選択の結果に対して責任を持つことと、自由は常にセットであるとトクヴィルは考えました。
27.「民主主義社会では、個人が政治に参加することが不可欠である。」(アメリカの民主政治)
解説:「政治は専門家や政治家に任せておけばいい」と考える市民が増えると、民主主義は形骸化してしまいます。選挙に行き、社会問題について考え、時には声を上げること。こうした市民一人ひとりの積極的な政治参加こそが、民主主義を機能させるための基本であると強調しました。
28.「アメリカでは、人は、彼が彼自身の利益を追求することによって、すべての人々の利益のために働くという教義から生まれる、ほとんど一般的な信念とみなすことができるものを発見する。」(アメリカの民主政治)
解説:これは「正しく理解された自己利益」という考え方を指します。目先の自分の利益だけを考えるのではなく、地域社会や国全体のことを考えて行動することが、長い目で見れば結局は自分自身の利益にもつながる、というアメリカ人の実践的な知恵をトクヴィルは指摘しました。
29.「私が恐れているのは、人々が些細な私的利益に没頭し、公共の事柄への関心を失うことだ。そうなれば、政府は、人々を社会生活から遠ざけ、無力化するために、管理と干渉を強めるだろう。」(アメリカの民主政治)
解説:人々が自分の仕事や家庭といった身の回りのことだけに夢中になり、社会や政治に無関心になってしまうこと。これこそが、トクヴィルが最も恐れた事態でした。市民の無関心は、政府がその力を際限なく拡大させる隙を与え、気づいた時には自由が失われているという「穏やかな専制」につながるからです。
30.「人が自由を愛するのは、自由そのものの物質的な恩恵のためではない。…人が自由を愛するのは、自由そのものがもたらす喜びのためである。」(アメリカの民主政治)
解説:自由の本当の価値は、お金儲けができるといった物質的なメリットにあるのではありません。「自分で考え、自分で選び、自分で行動できる」という、人間としての精神的な喜びや尊厳そのものにこそ、自由の究極的な価値があるとトクヴィルは述べました。
31.「私は、社会がより民主的になるにつれて、個人が重要性を失うことを恐れている。」(アメリカの民主政治)
解説:社会が平等になればなるほど、「みんなと同じであること」が重視され、多数派の意見が絶対的な力を持つようになります。その結果、個人のユニークな価値観や、少数派の意見が軽んじられ、社会の中に埋もれてしまうのではないかとトクヴィルは懸念しました。
32.「アメリカ合衆国は、世界で最も民主的な国であるが、同時に最も宗教的な国でもある。」(アメリカの民主政治)
解説:当時のヨーロッパでは、近代化や民主化が進むにつれて宗教の影響力は弱まるのが一般的でした。しかしアメリカでは、民主主義と活発な宗教活動が共存している。この事実にトクヴィルは深く感銘を受け、宗教がアメリカの民主主義の道徳的な土台を支えていると考えました。
33.「自由な社会では、政府は人々の主人ではなく、奉仕者である。」(アメリカの民主政治)
解説:これは、民主主義における政府と国民の関係を明確に示した言葉です。政府は国民を支配するために存在するのではなく、国民全体の利益のために働き、国民に仕える存在(サーバント)でなければならないという、人民主権の基本原則を述べています。
34.「専制政治は信仰なしに統治できるかもしれないが、自由はそうはいかない。民主主義の専制政治は、より広範囲で穏やかな性質のものである。」(アメリカの民主政治)
解説:自由な社会は、暴力や恐怖ではなく、人々が共有する道徳観によって支えられています。また、トクヴィルは、民主主義社会で起こりうる「多数派の専制」は、王様による独裁のような目に見える暴力ではなく、社会の同調圧力によって静かに人々の精神を縛る、より巧妙で広範囲にわたるものだと警告しました。
35.「アメリカ人の偉大さは、彼らがヨーロッパ人よりも賢明であることから生まれたのではなく、彼らが自分たちの犯した過ちを修正できることから生まれたのである。」(アメリカの民主政治)
解説:トクヴィルは、アメリカ社会の強みは、完璧であることにあるのではなく、失敗を犯したときにそれを率直に認め、そこから学んで改善していくことができる実践的な柔軟性にある、と高く評価しました。
36.「私はアメリカの人々と多くの時間を過ごしたが、彼らの経験と良識にどれほど感心したか、言葉では言い表せない。アメリカ人にヨーロッパについて話させないでください。彼は普通、非常に傲慢で、かなり愚かなプライドを示すでしょう。」(アメリカの民主政治)
解説:この言葉は、トクヴィルの冷静な観察眼を示しています。彼はアメリカ人の実践的な知恵や常識を称賛する一方で、国際的な視野が狭く、自国の文化に絶対的な自信を持つあまり、他国に対して傲慢な態度をとることがある、という弱点も鋭く指摘しています。
37.「私は、アメリカ合衆国において、私が探求した平等が、私が述べたように、社会の状態、法律、人々の意見に大きな影響を与えているという事実によって、非常に感銘を受けました。」(アメリカの民主政治)
解説:トクヴィルは、アメリカという国を理解するための最も重要なキーワードが「平等」であることを見抜きました。アメリカでは、法律や政治制度だけでなく、人々の日常的な考え方やライフスタイルに至るまで、「すべての人間は平等である」という原理が社会の隅々にまで浸透していることに、彼は深い感銘を受けたのです。
38.「新聞は文明社会に不可欠だが、その力は平等な条件下でのみ発揮される。」(アメリカの民主政治)
解説:ここで言う「新聞」は、現代の「メディア」や「報道機関」と考えることができます。メディアが権力を監視し、人々に多様な情報を提供するという重要な役割を果たすためには、特定の権力者や集団に支配されず、誰もが比較的平等に情報を発信・受信できる社会が前提条件になる、という鋭い指摘です。
39.「民主主義は、個人の独立を保証するものではなく、むしろ個人の独立を脅かすものである。」(アメリカの民主政治)
解説:民主主義は、多数派の意見に従うことを求める強い同調圧力を生み出します。そのため、多数派と異なる考えを持つ個人は、社会の中で孤立することを恐れて沈黙してしまいがちです。このように、民主主義は個人の精神的な独立を保証するどころか、むしろ脅かす危険な側面を持っているとトクヴィルは警告しました。
40.「民主主義は、人々を平等にするのを防ぐことはできない。しかし、平等主義が人々を隷属、知識、野蛮、繁栄、または惨めさに導くかどうかは、彼ら自身にかかっている。」(アメリカの民主政治)
解説:社会が平等な方向へ進んでいくのは、もはや止められない歴史の流れだとトクヴィルは考えました。しかし、その平等な社会が、人々が国家に支配される息苦しい社会になるのか、それとも自由で豊かな社会になるのか。その運命は、あらかじめ決まっているのではなく、最終的にはそこに生きる市民一人ひとりの選択と努力にかかっている、というメッセージです。
41.「多数派の絶対的な支配に対する唯一の対抗力は、結社の原理である。」(アメリカの民主政治)
解説:民主主義社会では、多数派の意見が圧倒的な力を持つようになります。この強大な力に対抗できるほぼ唯一の手段が「結社」、つまり市民が共通の目的のために自発的に集まってグループを作ることだとトクヴィルは考えました。一人ひとりの声は小さくても、人々が団結すれば、多数派や政府に対抗する大きな力となりうるのです。


コメント