
政府による緊縮財政政策が継続されるなか、特に地方における地域経済は厳しい状態が続いています。我が防府市においても例外ではなく、国の地方創生臨時交付金が入る度に、付加価値を付けたプレミアム商品券を発行してきましたが、一時的な消費刺激効果にとどまり、継続的な経済循環には至っていません。そこで、海外の事例等も参考にしながら、政府の緊縮財政政策が継続した場合でも、しっかりと地域経済が循環する仕組みを模索してまいります。 なお、調査及びレポートの作成にはAIを活用しております。文責:石田たくなり 使えば使うほど地域が豊かに!緊縮財政に打ち勝つ地方創生の切り札「減価する地域通貨」
はじめに
本レポートは、時間経過とともに価値が減少する「減価する地域通貨」に関する包括的な調査報告です。三菱総合研究所 主任研究員 奥村隆一氏の知見、国内外の事例、学術研究、そして共感コミュニティ通貨eumoの運営メンバーや利用店舗オーナー、導入を検討している自治体職員からの情報、店舗側の視点、地方銀行との連携の必要性とその課題などを踏まえ、多角的に検討します。特に、デジタル技術を活用した減価する地域通貨の可能性と、日本国内での導入の可能性と課題についても考察します。本レポートでは、特に時間経過による減価に焦点を当てて議論を進めます。
1. 減価する地域通貨とは
減価する地域通貨とは、一定期間ごとにその価値が減少する仕組みを持つ地域通貨です。この仕組みにより、通貨の早期使用が促され、地域内での消費活動や経済循環が活性化されることが期待されます。ドイツ人実業家のシルビオ・ゲゼルが提唱した「自由貨幣(Freigeld)」がその起源とされ、現代においても彼の理論は注目されています。
本レポートでは、時間経過による減価に焦点を当てます。これは、一定期間ごとに通貨の価値が一定割合で減少する仕組みであり、例えば毎週1%ずつ価値が減少し、2年間で価値がゼロになるようなケースが考えられます。 この方式は計画的な減価が可能であるというメリットがある一方で、店舗にとっては価値減少リスクが大きいというデメリットもあります。
減価する地域通貨は、流通促進以外にも、貯蓄抑制効果、投機的行動の抑制、地域経済の自立性向上などのメリットがあるとされています。価値が減少するため、貯蓄するインセンティブが低下し、消費が促進されます。また、通貨の価値が安定しないため、投機的な目的での保有が抑制されます。さらに、地域内での経済循環が活発化することで、外部経済への依存度が低下し、地域経済の自立性が向上します。
なお、ゲゼルは「自由土地思想」を提唱し、土地の私的所有が経済格差の根本原因であると考え、土地の国有化を主張しました。彼は、貨幣も土地と同様に、人々の労働の成果を不当に収奪する手段になっていると考え、自由貨幣を考案しました。
2. 過去の調査と研究
本レポート作成にあたり、国内外の学術論文データベースや地域通貨関連の書籍などを調査しました。特に、シルビオ・ゲゼル、マルグリット・ケネディ、ベルナール・リエターなどの研究者の論文を中心に、減価する地域通貨の理論的背景と実践例を分析しました。
また、三菱総合研究所 主任研究員 奥村隆一氏のレポート「『減価マネー』でモノ・サービスとの交換活発化」は、減価する地域通貨(奥村氏は減価マネーと呼称)の日本における導入可能性を論じた貴重な資料であり、本レポートの重要な参考文献となっています。
3. 日本国内における事例と課題
現在、日本国内で恒常的に運用されている時間経過によって減価する地域通貨の事例は見当たりません。しかし、過去には以下のような実験的な取り組みが行われました。
・地球村「SUND」: 1998年に発行されたが、広範な普及には至らなかった。具体的な減価方法として時間経過による減価を採用していた。しかし、認知度不足、加盟店不足、資金不足、運営体制の不備などにより、運用は中止された。
・高知県宿毛市「すくも減価型商品券」: 2009年に宿毛市と宿毛商工会議所が約5,000万円発行し、2009年7月~12月の期間、運用された。時間経過による減価の仕組みを採用し、短期的な消費喚起効果は見られたものの、効果の一過性、通常の商品券との差別化の困難さなどの課題があり、継続的な発行予算の確保の難しさから運用は終了した。
・総務省による実証実験: 2019年に複数の地域で実施され、時間経過による減価を含む地域通貨の消費促進効果が検証されたが、恒常的な運用には至っていない。なお、この実証実験の一部は三菱総合研究所が受託している。
・共感コミュニティ通貨eumoのë(ユーモ): 3ヶ月で失効する仕組みは、時間経過による減価と類似している。しかし、価値の減少自体が目的ではなく、共感の可視化が主目的である点が異なる。
これらの事例から、時間経過による減価を採用した地域通貨は短期的な消費喚起には効果があるものの、長期的な運用には課題があることが示唆されます。特に、店舗側は受け取った通貨の価値減少という課題に直面し、これが普及を妨げる大きな要因となっています。
日本特有の課題として、法規制(現行法における不明確な位置づけ)、商慣習(価値が安定した通貨への志向)、国民性(貯蓄重視)、技術インフラ(デジタル決済インフラとの互換性、デジタルデバイド)などが考えられます。
4. 海外における事例
海外では、時間経過による減価を取り入れた地域通貨は「滞留税付き貨幣(Demurrage Currency)」などと呼ばれ、複数の事例が存在します。「歴史的に重要な事例、現在も運用されている事例、電子化に成功した事例など、多様な観点から選定」し、紹介します。
・ヴェルグルの労働証明書(オーストリア、1932-1933年): 世界恐慌による経済危機を背景に、月に1%の減価(スタンプ税)により通貨の流通速度を高め、失業率の低下、公共事業の実施などの成果を上げた。しかし、オーストリア中央銀行からの圧力により中止された。
・ヴェラ(ドイツ、1929-1931年): 世界恐慌による経済危機を背景に、時間経過による減価を採用したが、政府による圧力、インフレへの懸念などにより、短期間で終了した。
・キームガウアー(ドイツ、バイエルン州、現在): 地域経済の活性化を目的に、当初は時間経過による減価の仕組みを取り入れていた。電子化以降はユーロに戻す際の手数料のみとなっているが、電子化により店舗側の負担を軽減し、長期的な運用に成功している点で注目される。
・ブリストル・ポンド(イギリス、ブリストル、2012-2020年): 紙幣に手数料を課すことで、時間経過による減価と似た効果を生み出そうとした。しかし、デジタル通貨の普及に伴い終了。
・シード(Seeds): 近年登場した、ブロックチェーン技術を活用した事例である。環境再生や社会貢献活動に貢献するプロジェクトを支援するプラットフォームであり、独自のトークン「Seeds」を発行している。Seedsトークンは、一定期間ごとに価値が減少する仕組み(デマーレッジ)を採用しており、時間経過による減価の一形態と捉えることができる。
これらの事例は、時間経過による減価を採用した地域通貨が地域経済の活性化に貢献する可能性を示しています。
5. 店舗側における減価する地域通貨への対応
店舗側は、受け取った時間経過により減価する地域通貨の価値減少リスクをどのように軽減するかが重要な課題となります。「店舗が参加するメリットをいかに設計するかが、減価する地域通貨の成否を分ける重要なポイントである」ことを強調します。各事例では、以下のような工夫が凝らされている。
・キームガウアー: 電子化以降、ユーロに戻す際にのみ手数料が発生する仕組みに変更し、店舗の負担を軽減した。
・ヴェルグルの労働証明書: 月に1%の減価(スタンプ税)を課し、通貨の流通を強制的に促進した。
・ブリストル・ポンド: 紙幣に手数料を課すことで、電子マネーの利用を推奨し、減価を実質的に肩代わりする仕組みを試みた。
これらの事例から、店舗側の対応は、減価の方式、通貨の形態、地域経済の状況などによって異なることが分かります。重要なのは、店舗が地域通貨を受け取るインセンティブを維持し、地域通貨の流通に積極的に参加するように促す仕組みを設計することです。一般的な解決策としては、地域通貨の早期使用、地域通貨の交換などが考えられます。
さらに、業種別の対応策として、以下のような例が考えられる。
・小売業: 減価前に優先的に仕入れを行う、ポイント還元率を高める、限定セールを実施する。
・サービス業: 減価前に必要な物資を調達する、地域通貨利用者向けの特別メニューを提供する。
・飲食業: 減価前に食材を仕入れる、地域通貨利用者向けの割引を実施する、地域の生産者と連携して地産地消を推進する。
6. 日本国内での導入の可能性と課題
(1) 可能性
消費喚起効果への期待: 総務省の実証実験や、奥村隆一氏のレポートで示されたように、消費を押し上げる効果が期待できる。日本の地方が抱える人口減少、少子高齢化、地域経済の衰退、地域コミュニティの希薄化などの課題に対して、減価する地域通貨は、消費喚起による地域経済の活性化、地域内経済循環の促進による地域経済の自立性向上、地域通貨を通じた地域住民同士の交流促進による、地域コミュニティの再生などの解決策を提供できる可能性がある。
・デジタル技術の活用: スマートフォン決済等の普及により、デジタル地域通貨の導入・運用コストを抑え、効率を高めることが可能。
・地方創生との親和性: 地方創生を推進する新たなツールとして、自治体や地域住民の関心を集める可能性。
(2) 課題
・店舗側の負担と参加インセンティブ: 店舗側の減価リスクを軽減し、参加メリット(例:新規顧客獲得、手数料収入、地域貢献によるイメージ向上)を明確化することが最大の課題。対策として、減価率の調整、優先的な仕入れ先ネットワークの構築、法定通貨への交換システムの導入、ポイント付与や割引などの特典提供、地域貢献活動としてのPRなどが考えられる。特に、毎週1%ずつ減価し2年で価値がゼロになるような時間経過による減価は店舗側のリスクが大きいため、慎重な制度設計が必要となる。
・地方銀行との連携: 信用力向上、地域経済活性化、新サービスの創出のためには地方銀行との連携が不可欠だが、システム連携(既存システムとの連携コストや技術的課題)、法規制(資金決済法や銀行法との関係、新法規制の必要性)、リスク管理(価値変動、システム障害、セキュリティ対策)、利益相反(地方銀行の収益と地域通貨の目的との間の利益相反の可能性)など、様々な課題が想定される。
・持続可能な運用体制: 長期的な運用には、多様なステークホルダーの参画と合意形成、明確な目的と効果測定指標の設定(例:消費額、流通量、店舗や住民の満足度)、運営資金の確保、専門人材の確保と育成などが重要。
・デジタルデバイドへの配慮: デジタル地域通貨を導入する場合、紙の地域通貨との併用、代理決済(例:家族や支援者による代理決済)やサポート窓口の設置、デジタルリテラシー向上のための講習会(例:スマートフォンの基本操作、アプリの使い方、セキュリティ対策)などの実施が必要。
・リスクの明記: 消費者保護(価値変動による不利益防止)、セキュリティ(ハッキング対策)、システム障害(障害発生時の対応策)など、導入に伴うリスクへの対策が必要。
日本国内で導入を成功させるための要因として、強力なリーダーシップ(自治体や商工会議所など)、地域住民の合意形成(十分な情報提供と議論)、段階的な導入(小規模な実証実験から開始)、明確な目的と目標設定、持続可能な運用体制(運営資金、専門人材、関係機関との連携)が重要である。
7. 減価する地域通貨に関する研究論文
シルビオ・ゲゼル、マルグリット・ケネディ、ベルナール・リエターなどの研究者の論文を中心に、減価する地域通貨の理論的背景、効果、課題について分析した。
・シルビオ・ゲゼルの研究: 「自由貨幣」理論を提唱し、貨幣の流通速度を高めることで経済を活性化するという考えを示した。特に、時間経過による減価の有効性を主張している。
・マルグリット・ケネディの研究: 地域通貨や代替経済システムに関する研究で知られ、減価する地域通貨を含む様々な代替通貨システムを紹介し、その可能性について論じている。
ベルナール・リエターの研究: 地域通貨が地域経済の活性化や社会的なつながりの強化に貢献する可能性を指摘している。
・奥村隆一氏の研究: 「減価マネー」によるベーシックインカムの可能性を示唆し、週1%の減価により2年で価値がゼロになる減価マネーは、2年分の財源を確保すれば、3年目以降は新たな財源が不要となることを指摘している。また、社会保障関係費の3分の1以上を占める年金と生活保護を減価マネーによるベーシックインカムに切り替えた場合、財政改善の方向に進む可能性を指摘している。
・苫米地英人氏の研究: 「デジタル半減期通貨」を提唱し、ブロックチェーン技術を活用し時間経過と共に価値が減少するデジタル通貨の可能性を指摘している。特定のアルゴリズムに基づいて自動的に価値が減少することで、通貨の流通促進や、社会貢献活動への資金流入を促すことを目的としている。
近年では、デジタル技術を活用した地域通貨の研究や、行動経済学的な観点から減価する地域通貨の効果を分析する研究が進められている。一方で、価値の減少がかえって消費を抑制する可能性や、管理コストが大きいといった批判的な意見もある。
今後の研究の方向性として、デジタル通貨と組み合わせた場合の効果検証、時間経過による減価の最適な減価率に関する実証研究、地域特性に応じた最適な導入モデルの構築などが期待される。
8. 結論:慎重かつ段階的な導入と継続的な検証の重要性
時間経過により減価する地域通貨は、地域経済の活性化や地域コミュニティの強化に貢献する可能性を秘めているが、導入には多くの課題が存在します。日本国内で導入を検討する際には、特定の地域で小規模な実証実験を行い、効果や課題を慎重に検証することが重要です。
実証実験の具体的なステップ
・パイロット地域の選定: 地域特性、住民の関心、協力団体の有無などを考慮して選定。
・目的と目標の設定: 地域経済の活性化、地域コミュニティの強化など、具体的な目的と目標を設定。
・減価の仕組みの設計: 減価率、減価のタイミング、通貨の形態(紙幣、電子マネー)などを決定。特に、時間経過による減価率の設定は、店舗側のリスクと効果のバランスを考慮して慎重に行う必要がある。例えば、毎週1%ずつ減価し、2年で価値がゼロになるような設計が考えられる。
・参加店舗の募集: 地域の店舗に参加を呼びかける。店舗向けのインセンティブ設計が重要となる。
・住民への説明会の開催: 実験の目的、仕組み、参加方法などを住民に説明。
・効果測定指標の設定: 消費額、流通量、店舗や住民の満足度など、効果測定指標を設定。
・実証実験の実施: 一定期間、実証実験を実施し、データを収集。
・結果の評価と改善: 実験結果を評価し、課題を特定、改善策を検討。
・本格導入の検討: 実験結果を踏まえ、本格導入の是非を検討。
特に、店舗側の負担軽減、地方銀行との連携、持続可能な運用体制の構築、デジタルデバイドへの配慮などを重視する必要がある。実証実験の結果を踏まえ、段階的に導入地域を拡大していくことが、成功への鍵となるだろう。また、導入後も継続的に効果を測定・評価し、必要に応じて仕組みを改善していくことが重要である。
今後は、AIを活用した需要予測に基づく動的な減価率の調整、IoTデバイスと連携した地域通貨決済の自動化など、AIやIoTなどの先端技術との組み合わせによる可能性も視野に入れながら、日本国内における減価する地域通貨の可能性をさらに探求していく必要がある。
行動提言
・自治体関係者: 本レポートで紹介した事例や課題を参考に、地域特性に応じた減価する地域通貨の導入可能性を検討する。特に、時間経過による減価を採用する場合は、その減価率や運用方法について、奥村隆一氏のレポートで提唱 されている週1%減で2年でゼロになるモデル等を参考にしつつ、慎重に検討する必要がある。
・地域住民: 減価する地域通貨に関する情報を収集し、地域での導入について議論を深める。特に、時間経過による減価が生活に与える影響について、十分に理解することが重要である。
・研究者: 時間経過による減価に焦点を当て、最適な減価率や運用方法に関する実証研究を進める。また、デジタル技術との組み合わせによる可能性を探求する。
・企業: 時間経過による減価を採用した地域通貨に関連する技術開発やサービス提供の可能性を検討する。特に、店舗側の負担を軽減するソリューションの開発が期待される。
最後までお読みくださり、有り難うございました。
本提案は、現時点での私なりの考察をまとめたものですが、減価する地域通貨の導入には、様々な論点があると考えています。例えば、適切な減価率の設定、店舗側の負担軽減策、デジタル機器の利用に不慣れな方への対応など、皆様はどのようにお考えでしょうか?
ぜひ、私と意見交換をしていただければ幸いです。
私の携帯電話(090-4650-4324)まで、お気軽にご連絡ください。
皆様との対話を通じて、本提案をさらに良いものに練り上げ、防府市にとって最適な形で実現できるよう、尽力いたします。
防府市議会議員 石田たくなり
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